毎年5月はフェアトレード月間です。

今年もこの時期を迎え、改めて、フェアトレード事業を取り巻く社会の変化について考えていました。

フェアトレードという言葉の認知は、以前に比べて確実に広がってきたと感じます。
学校教育の中でも、エシカル消費や環境問題について学ぶ機会が増え、企業も「サステナビリティ」を掲げることが当たり前になりつつあります。

一方で、それがそのままフェアトレード事業の大きな追い風になっているかというと、必ずしもそうではありません。

なぜなのか。
そして、これから私たちはどのようにフェアトレードを伝えていけばよいのか。

今の時代にフェアトレードがどんな位置にあるのかを見つめるために、今日は3つの動きについて考えてみたいと思います。

1)「知っていること」と「選ぶこと」の間にある距離

まずひとつ目は、環境やエシカルへの関心が高まっている一方で、ファストファッション、特にSHEINやTemuのようなウルトラファストファッションが、若い世代を中心に広く利用されているという現実です。

興味深いのは、それを利用しているZ世代が、同時に環境問題や社会課題への関心が高い世代でもあることです。

学校でフェアトレードやエシカル消費について学び、気候変動への関心も持っている。
それでも、実際の買い物の場面では、価格の安さ、デザインの豊富さ、手軽さ、楽しさに引き寄せられる。

つまり、「知っていること」と「行動すること」の間には、思っている以上に大きな距離があるのだと思います。

デカボLabの調査では、Z世代の52.3%が、環境への悪影響を認識しながらも、価格やデザインに惹かれて購入してしまう「ごめんね消費」を経験していると報告されています。

これはウルトラファストファッションに限らず、またZ世代に限らず、現代の消費の中で多くの人が感じていることかもしれません。

「本当はより良い選択をしたい」
「でも、今の自分にとって手に取りやすいものを選んでしまう」

その揺れの中に、今の消費社会のリアルがあるように感じます。

2)サステナビリティが“特別なもの”ではなくなってきた時代

ふたつ目は、ファストファッションのブランドも、サステナビリティを強く打ち出すようになっていることです。

大手ブランドでは、リサイクル素材の使用、古着回収、環境配慮素材への転換などを進め、サステナビリティや透明性を積極的に発信しています。

その中で、2026年5月には、透明性をブランド価値のひとつとして掲げてきたアメリカのファッションブランド Everlane が、SHEINに買収されると報じられました。

エシカルやサステナブルを掲げてきたブランドが、巨大なファストファッション企業の傘下に入る。
このニュースは、今のファッション業界の複雑さを象徴しているように感じます。

サステナビリティという言葉は、以前よりもずっと身近になりました。
それ自体は、とても大切な前進です。

一方で、その言葉が広がれば広がるほど、私たちは「本当に何が変わっているのか」を見極める視点も必要になってきます。

3)古着という、身近なエシカルの選択肢

三つ目は、古着市場の広がりです。

古着は以前からファッションのひとつのジャンルでしたが、今は「手の届きやすいエシカルな選択肢」としても支持されているように感じます。

新しくつくらない。
廃棄を減らす。
価格的にも手に取りやすい。

エシカルファッションがどうしても高価格帯になりやすい中で、古着が持つ魅力はとても大きいと思います。

ただし、ここにも複雑さがあります。

古着市場が広がる背景には、そもそも大量生産・大量消費・大量廃棄が続いている現実があります。
また、世界では余剰衣料が国境を越えて流通し、受け入れ地域でごみ問題や地域産業への影響を生んでいる側面も指摘されています。

古着を選ぶことは、たしかに前向きな選択のひとつです。
同時に、それだけではファッション産業全体の構造を変えることにはつながりにくい。

ここにもまた、今の時代の難しさがあります。

「少し安心できる選択」の先へ

こうして見ていくと、今の時代の大きな特徴のひとつは、「これまでのライフスタイルを大きく変えなくても、少し安心できる方向」へ進んでいることのように思えます。

「ごめんね」と思うことで、罪悪感を少し和らげる。
ファストファッションがサステナビリティを掲げることで、少し安心する。
古着やリサイクル素材の服を選ぶことで、少し良いことをした感覚を持つ。

もちろん、環境や人権への意識がほとんど語られてこなかった時代に比べれば、社会は確実に前に進んでいます。

けれども、環境負荷を減らすためのさまざまな取り組みが広がる一方で、大量生産・大量消費の構造そのものは、まだ大きくは変わっていないようにも感じます。

そしてその裏側では、作り手の暮らしや、地球環境、遠く離れた地域に、しわ寄せがいっている現実があります。

私たちが目指しているのは、ただ「罪悪感を和らげること」ではありません。

暮らしや価値観そのものを、少しずつでもより良い方向へ変えていくこと。
そして、作り手、売り手、買い手、社会、地球にとって、より良いライフスタイルを提案していくことです。

シサム工房が大切にしていること

私たちが大切にしているのは、作り手の暮らしに思いを向けること。
地球環境への負荷を減らそうとすること。
そして、つくられたものを長く大切に使うことです。

それは、単に「エシカルっぽく見える」こととは、やはり違います。

どこの誰が、どのようにつくったのか。
その仕事は、作り手の暮らしを支えているのか。
その素材や生産のあり方は、環境にどのような影響を与えているのか。
そして、手にした人が長く大切に使いたくなるものになっているのか。

フェアトレードは、そうした問いを一つひとつ大切にしながら、ものづくりと販売を重ねていく取り組みです。

正直に言えば、今の時代の流れを、私たちの力だけで十分に追い風にできているとはまだ言えません。
事業としての難しさを感じる場面も多くあります。

それでも、光も感じています。

同じデカボLabの調査では、Z世代の24.8%が、環境への配慮からウルトラファストファッションの購入を避ける選択をしていると報告されています。

「誰かにとって、社会にとって、地球にとって、より良い選択をしたい」
そう願う人たちは、世代を問わず、少しずつ増えているはずです。

大切なのは、そうした人たちに、フェアトレードを“正しさ”として押しつけることではありません。

「これ、いいな」
「身近に取り入れられそう」
「この買い物が、誰かの暮らしにつながっているんだ」

そう感じてもらえるように、ハードルを低く、楽しく、前向きに伝えていくことだと思います。

シサム工房では今年、「選びたくなる理由としてフェアトレードを伝える」ことを大切なテーマにしています。

劇的に何かが変わるわけではないかもしれません。
それでも、日々の小さな発信や、店頭での会話、商品を通した出会いの積み重ねが、少しずつ未来を変えていくと信じています。

フェアトレードを、特別なものではなく、暮らしの中の自然な選択肢へ。

これからも工夫しながら、一つひとつ形にしていきたいと思います。

シサム工房ミズノ